ベトナム現地法人の立ち上げ、リアルな苦労とやりがい
- Daisuke Neigisi

- 12 分前
- 読了時間: 6分

(ベトナムオフショア開発/開発拠点づくりを検討している方向け)
「ベトナムで開発体制を作りたい。でも、何から始めればいいか分からない」「すでにオフショアはあるけど、品質・納期・コミュニケーションが安定しない」
こうした相談を受けるたびに思うのは、“現地法人を立ち上げる”ことは、単なるコスト最適化ではなく、事業の推進力そのものを作る挑戦だということです。
今回は、私たちがベトナム現地法人を立ち上げ、運営してきた中で感じたリアルな苦労と、そこを超えた先にあるやりがいを、できるだけ実務目線でまとめます。
(※制度・税務・労務の詳細は個別事情で変わるため、最終判断は専門家確認を前提にしてください)
なぜ「現地法人」なのか?(ラボ型・SES型と何が違う?)
ベトナム開発といっても、選択肢はいくつかあります。
国内ベンダー経由のオフショア(手離れは良いが、現場が見えづらい)
現地パートナーとラボ契約(スピードは出るが、運用設計次第でブレる)
現地法人を作って自社拠点化(難易度は高いが、長期で武器になる)
現地法人の強みは、ひとことで言うと 「現地の当事者になれる」 こと。採用、育成、文化づくり、品質、セキュリティ、契約、評価制度……すべてが自分ごとになります。
ただし、当然ながら“楽な道”ではありません。次章からが本題です。
立ち上げで苦労すること①:まず「会社を作る」だけで想像以上に大変
日本で会社を作った経験がある方ほど、最初にギャップを感じやすいです。
登記・ライセンス・定款関連の手続きが多い
銀行口座開設が想像以上に時間がかかる(追加資料が何度も出ることも)
オフィス契約や住所要件など、実務の前提条件が多い
会計・税務・給与計算の運用設計を早期に固めないと後で詰む
ここで重要なのは、**「設立=ゴール」ではなく「運用の入口」**だということ。
特に会計・税務は、あとから帳尻合わせがしづらいので、最初に“型”を作るのが効きます。
立ち上げで苦労すること②:採用は「人を集める」より「辞めない設計」が本番
ベトナムのIT人材市場は活気があり、優秀な方も多いです。一方で、採用ができても、定着と育成が難所になります。
採用チャネルを作っても、面接基準がブレると一気に品質が落ちる
ジョブホッピングが起きやすく、評価制度と成長機会が弱いと抜ける
“日本式の我慢”を前提にすると、摩擦が増える
言語の壁より、**期待値の壁(何をもって「良い仕事」か)**が大きい
現地法人で効いたのは、次のような設計でした。
期待値を言語化する(役割定義、評価基準、昇給の考え方)
育成を仕組みにする(オンボーディング、レビュー文化、ナレッジ共有)
キャリアの見取り図を見せる(1年後・2年後にどう成長できるか)
“採用”は入口で、勝負は“定着と成長”です。
立ち上げで苦労すること③:品質は「個人の能力」ではなく「仕組み」で決まる
オフショア開発がうまくいかない理由として多いのが、「ベトナムのエンジニアのスキルが…」という言い方です。
でも現場で痛感するのは、問題の多くは個人ではなく設計不足です。
要件定義が曖昧なまま投げてしまう
“完成”の定義がチームごとに違う(Definition of Doneがない)
テスト観点が属人化する
仕様変更・優先度変更が管理されない
コミュニケーションが「報告」になり、「判断」になっていない
だからこそ、現地法人では 品質管理・進捗管理・仕様管理を“型化” する必要が出ます。(ここができると、現地のメンバーは驚くほど伸びます)
立ち上げで苦労すること④:コミュニケーションは「頻度」より「構造」
「毎日ミーティングしてるのに、ズレが減らない」これもよく聞きます。
ポイントは頻度ではなく、決めるべきことが決まる構造になっているか。
誰が意思決定者か(日本側/ベトナム側/PM/プロダクト責任者)
何をいつ決めるか(仕様凍結、優先度、リリース条件)
何が起きたらエスカレーションか(品質・遅延・セキュリティ)
ドキュメントの粒度と更新ルール(最新がどれか分からない状態は地獄)
現地法人では「会話が増える」より先に、意思決定と情報の流れを設計することが重要でした。
それでも、現地法人には「やりがい」がある
苦労の話が続きましたが、ここからが本音です。現地法人の立ち上げは、やり方さえ間違えなければ、事業の武器になります。
1) 変化に強い開発体制が作れる
仕様変更、追加開発、運用改善が“相談できるチーム”になります。単なる発注先ではなく、一緒にプロダクトを育てる仲間になる感覚です。
2) 「品質が安定する瞬間」が来る
レビュー、テスト、運用、ドキュメント、育成が回り出すと、あるタイミングで一気に安定します。ここは本当に感動します。
3) 海外でチームを作る経験は、経営者としての視座が上がる
制度も文化も違う中で、成果を出す仕組みを作る。これは経営者・事業責任者としての経験値を跳ね上げます。
これから始める企業向け:ベトナム開発を成功させるロードマップ(実務版)
「いきなり現地法人は重い」という企業も多いので、現実的な順序をまとめます。
目的の明確化(コスト?スピード?採用?内製化?)
対象領域の切り出し(新規開発/既存改修/運用保守/QAなど)
小さく検証(PoC〜小規模リリースで“型”を作る)
運用設計(要件定義の粒度、品質基準、体制、会議体、ツール)
拡大(ラボ拡大 or 現地法人化を判断)
この順序を踏むと、失敗確率がグッと下がります。
よくある質問(検索されやすいポイント)
Q. ベトナム現地法人を作るべき企業は?A. 継続的に開発を回したい、採用・育成まで含めて資産化したい、プロダクトを中長期で伸ばしたい企業は相性が良いです。
Q. すでにオフショアがあるが、うまくいかない…A. 多くは「人」ではなく「要件・品質・意思決定の設計不足」です。現状のプロセスを棚卸しするだけでも改善余地が見つかります。
Q. 企画〜要件定義〜開発〜運用まで一気通貫で頼みたいA. 一気通貫の強みは、仕様・品質・運用のつながりを切らないこと。最初に“設計の型”を作るのが最重要です。
最後に:ベトナムは「魔法の杖」ではなく「育てる資産」
ベトナム現地法人の立ち上げは、短期的には大変です。でも、そこで作った体制・人材・運用の型は、時間とともに価値が積み上がる “資産” になります。
もし今、
ベトナムオフショアを検討している
すでに活用しているが、品質やマネジメントで詰まっている
新規事業やシステム開発を進めたいが、進め方が分からない
企画〜要件定義〜開発〜運用監視までまとめて相談したい
という状況であれば、状況整理からでも一緒に進められます。「うちは何が課題なのか?」を言語化するところから、まずは壁打ちしましょう。



コメント