スタートアップに必要なインシデント管理
- Daisuke Neigisi

- 5月27日
- 読了時間: 11分
スタートアップにとって、最も大切なものは何でしょうか。
スピードでしょうか。資金調達でしょうか。優秀な人材でしょうか。プロダクトのアイデアでしょうか。
もちろん、すべて大切です。
しかし、スタートアップが本当に成長していくために必要なものは、実は「失敗を資産に変える仕組み」だと私は考えています。
スタートアップは、失敗を避けながら成長することはできません。むしろ、失敗や課題があるからこそ、プロダクトは磨かれ、組織は強くなり、事業は前に進んでいきます。
だからこそ、スタートアップに必要なのは、失敗を隠すことではありません。失敗を責めることでもありません。失敗を曖昧なまま流してしまうことでもありません。
必要なのは、発生したインシデントを正しく記録し、原因を整理し、再発防止につなげ、組織の知見として蓄積していくことです。
つまり、スタートアップにこそ「インシデント管理」が必要なのです。
インシデント管理は、大企業だけのものではない
インシデント管理という言葉を聞くと、大企業や金融機関、上場企業、あるいはセキュリティ部門が行う厳格な管理をイメージされる方も多いかもしれません。
もちろん、大企業においてインシデント管理は非常に重要です。システム障害、情報漏洩、個人情報の取り扱いミス、運用事故、顧客影響のある不具合などは、事業継続や社会的信用に直結します。
しかし、インシデント管理は大企業だけに必要なものではありません。
むしろ、私はスタートアップにこそ必要だと考えています。
なぜなら、スタートアップは日々、未完成の状態で前に進んでいるからです。
プロダクトも未完成。業務フローも未完成。組織体制も未完成。役割分担も未完成。顧客対応も未完成。開発プロセスも未完成。
この未完成な状態で、スピードを優先しながら事業を伸ばしていくのがスタートアップです。
そのため、日々さまざまな問題が起きます。
仕様の認識違い。リリース後の不具合。顧客への説明不足。開発チームとビジネス側の連携ミス。問い合わせ対応の遅れ。運用手順の漏れ。担当者しか知らない属人的な対応。優先順位の判断ミス。小さなセキュリティリスク。外部パートナーとの認識齟齬。
これらはすべて、広い意味でのインシデントです。
大きな障害や事故だけがインシデントではありません。事業成長を妨げる課題、顧客体験を損なう問題、組織の信頼を下げる出来事は、すべて管理すべき対象です。
スタートアップの失敗は、血となり骨となる
スタートアップにおいて、失敗は避けるべきものではありません。
もちろん、重大な事故や顧客への大きな損害は防がなければなりません。しかし、日々の小さな失敗や課題は、スタートアップにとって非常に貴重な学習機会です。
むしろ、失敗しないスタートアップはありません。
大切なのは、失敗したかどうかではなく、失敗から何を学び、次にどう活かすかです。
たとえば、ある機能をリリースした後に、顧客から「使い方が分かりにくい」と指摘されたとします。
これは単なるクレームでしょうか。私は違うと思います。
それは、プロダクト改善の重要なヒントです。
あるいは、開発チームと営業チームの認識がずれて、顧客への説明内容と実際の仕様に差分が出たとします。
これは単なる連携ミスでしょうか。これも違います。
それは、社内の情報共有プロセスを見直すきっかけです。
また、リリース直前になって想定していなかった不具合が見つかり、スケジュールが遅れたとします。
これは単なる開発遅延でしょうか。やはり違います。
それは、要件定義、設計、レビュー、テスト、受け入れ確認のプロセスに改善余地があるというサインです。
スタートアップにとって、失敗や課題は恥ではありません。それを記録せず、振り返らず、同じことを繰り返すことこそが、本当の問題です。
失敗は、きちんと扱えば会社の血となり骨となります。逆に、失敗を放置すれば、組織の弱点として残り続けます。
インシデント管理がない会社で起こること
インシデント管理がない会社では、同じような問題が何度も繰り返されます。
「あれ、前にも同じことが起きませんでしたか?」「誰が対応したんでしたっけ?」「原因は結局何だったんでしたっけ?」「再発防止策は決まりましたか?」「その後、改善されたんでしたっけ?」
このような会話が繰り返される組織は、非常に危険です。
なぜなら、問題が起きているにもかかわらず、会社として学習できていないからです。
担当者の記憶に頼る。Slackやチャットの履歴に埋もれる。会議では話したが記録に残っていない。誰かが対応したが、証跡がない。再発防止策を決めたが、実行されたか分からない。経営陣には報告されたが、現場改善につながっていない。
この状態では、事業が成長するほどリスクも大きくなります。
最初は小さな問題で済んでいたものが、顧客数が増え、取引先が増え、社員が増え、システムが複雑になることで、ある日突然大きな事故として表面化します。
スタートアップはスピードが重要です。しかし、スピードだけで走り続けると、どこかで必ず歪みが出ます。
その歪みを早めに発見し、記録し、改善する仕組みがインシデント管理です。
インシデント管理は「責任追及」ではなく「再発防止」である
インシデント管理というと、誰が悪かったのかを明らかにする仕組みだと誤解されることがあります。
しかし、本来の目的は責任追及ではありません。
目的は、再発防止です。そして、組織として強くなることです。
スタートアップでは、一人ひとりが多くの役割を担っています。限られた人数で、営業、開発、顧客対応、運用、管理、資金繰り、採用、広報などを同時に進めています。
その中でミスが起きるのは、ある意味当然です。
だからこそ、個人を責める文化ではなく、仕組みを改善する文化が必要です。
なぜ、その問題が起きたのか。どのプロセスに抜け漏れがあったのか。誰に情報が届いていなかったのか。どの確認が不足していたのか。次に同じことが起きないように、何を変えるべきか。
このように考えることで、インシデントは組織改善の材料になります。
良い組織は、失敗した人を責めません。失敗から学ばない状態を放置しません。
スタートアップに必要なインシデント管理の項目
スタートアップが最初から大企業のような重厚な管理体制を作る必要はありません。
むしろ、最初から複雑にしすぎると運用されなくなります。
重要なのは、シンプルで続けられる形にすることです。
最低限、以下のような項目を管理するだけでも十分に効果があります。
発生日。発生内容。顧客影響の有無。影響範囲。原因。一次対応。恒久対応。再発防止策。担当者。対応期限。対応状況。証跡。経営報告の要否。
特に重要なのは、対応状況と証跡です。
「対応しました」だけでは不十分です。どのように対応したのか。誰が確認したのか。再発防止策は実行されたのか。顧客への説明は完了したのか。システム上の改修は反映されたのか。運用手順は更新されたのか。
ここまで追える状態にしておくことで、会社としての信頼性が高まります。
経営会議で上がるインシデントは、会社の重要資産である
経営会議や役員会で取り上げられるような重大インシデントは、特に慎重に管理する必要があります。
なぜなら、それは単なる現場課題ではなく、会社全体の経営課題だからです。
重大インシデントには、会社の弱点が表れます。
開発体制の弱さ。品質管理の弱さ。顧客対応の弱さ。意思決定の遅さ。情報共有の不足。権限設計の曖昧さ。運用監視の不足。セキュリティ意識の甘さ。外部パートナー管理の弱さ。
これらは、成長企業にとって避けて通れない課題です。
だからこそ、重大インシデントは「大変だった」で終わらせてはいけません。
会社として一覧管理し、対応証跡を残し、再発防止策を追い続ける必要があります。
この積み重ねが、後に内部統制、監査対応、IPO準備、エンタープライズ企業との取引、金融機関や大手企業との信頼構築にもつながっていきます。
スタートアップの段階からこの意識を持っている会社は、成長した後も強いです。
逆に、初期段階でインシデントを軽視している会社は、事業が拡大したタイミングで大きな問題に直面します。
開発会社にもインシデント管理の視点が必要である
システム開発においても、インシデント管理は非常に重要です。
開発会社の役割は、ただ言われたものを作ることではありません。
要件定義の段階でリスクを発見する。設計段階で将来の運用を考える。開発段階で品質を担保する。テスト段階で不具合を可視化する。リリース後に障害対応できる体制を作る。運用しながら改善を続ける。
ここまで見て初めて、開発は事業の武器になります。
特にスタートアップでは、スピードを重視するあまり、要件定義やテスト、運用設計が後回しになりがちです。
しかし、プロダクトが顧客に使われ始めると、そこからが本当の勝負です。
リリースして終わりではありません。リリースしてから、顧客の声を拾い、問題を直し、機能を改善し、運用を安定させていく必要があります。
そのためには、インシデント管理の考え方が欠かせません。
何が起きたのか。なぜ起きたのか。どう直したのか。次に起きないように何を変えたのか。
このサイクルを回せる開発体制こそ、スタートアップに必要な開発体制です。
ベトナムオフショア開発でもインシデント管理は重要
ベトナムオフショア開発を活用する企業にとっても、インシデント管理は非常に重要です。
オフショア開発では、日本側と海外側で距離があります。言語も違います。文化も違います。仕事の進め方も違います。品質に対する感覚も違うことがあります。
そのため、問題が起きたときに曖昧なまま進めてしまうと、後から大きな手戻りになります。
仕様の認識違い。テスト観点の不足。レビュー不足。スケジュール遅延。品質基準のズレ。報告の遅れ。責任範囲の曖昧さ。
これらは、オフショア開発でよく起こる課題です。
しかし、これらも正しく管理すれば、チームの成長材料になります。
重要なのは、問題を感情で処理しないことです。日本側が一方的に責めるのではなく、何が原因で、どの工程に問題があり、次からどう改善するかを明確にすることです。
弊社TomorrowFuture株式会社では、ベトナムオフショア開発を単なるコスト削減手段とは考えていません。
日本側の企画、要件定義、PM、PMO、品質管理、運用設計と、ベトナム側の開発力を組み合わせることで、事業成長に貢献する開発体制を作ることが重要だと考えています。
その中でも、インシデント管理は非常に重要な要素です。
問題が起きたときに、誰かを責めるのではなく、チーム全体で改善する。この文化を作れるかどうかが、オフショア開発の成功を大きく左右します。
スタートアップに必要なのは、完璧な管理ではなく、成長する管理
スタートアップにおいて、最初から完璧な管理体制を作る必要はありません。
むしろ、完璧を目指しすぎるとスピードが落ちます。
大切なのは、今の組織規模に合った形で、必要最低限の管理を始めることです。
スプレッドシートでも構いません。Notionでも構いません。Backlog、Jira、Redmine、Slack、Google Driveでも構いません。
ツールは何でもよいのです。
重要なのは、問題を記録し、対応状況を見える化し、再発防止まで追い切ることです。
最初は簡単な一覧管理で十分です。ただし、経営会議や役員会で上がるような重大インシデントについては、必ず会社として管理するべきです。
なぜなら、それは会社の未来に関わる重要な学習データだからです。
インシデント管理ができる会社は、強くなる
インシデント管理ができる会社は、強くなります。
同じ失敗を繰り返さなくなる。顧客対応が早くなる。開発品質が上がる。チーム間の連携が良くなる。経営判断が正確になる。監査や統制にも対応しやすくなる。外部パートナーとの連携も安定する。顧客からの信頼も高まる。
これは、単なる管理業務ではありません。
会社を成長させるための仕組みです。
スタートアップは、常に不確実性の中で戦っています。
正解が分からない。市場が変わる。顧客の反応も変わる。プロダクトも変わる。組織も変わる。採用も難しい。資金も限られる。
その中で前に進むためには、発生した課題をその場限りで終わらせず、会社の知見に変える必要があります。
インシデント管理とは、会社が賢くなるための仕組みです。
まとめ
スタートアップにとって、失敗や課題は避けるべきものではありません。
それは、事業を成長させるための材料です。プロダクトを磨くためのヒントです。組織を強くするための経験です。経営判断を深めるためのデータです。
だからこそ、スタートアップにはインシデント管理が必要です。
大切なのは、失敗を責めることではありません。失敗を隠すことでもありません。失敗を曖昧に流すことでもありません。
大切なのは、失敗を記録し、原因を整理し、再発防止につなげ、会社の成長資産に変えることです。
スタートアップにとって、インシデント管理は守りの管理ではありません。
成長するための攻めの仕組みです。
TomorrowFuture株式会社では、スタートアップや新規事業を進める企業に向けて、企画、要件定義、システム開発、PM/PMO、品質管理、運用監視、ベトナムオフショア開発の活用まで、一気通貫で支援しています。
開発を進めたいが、何から始めればよいか分からない。ベトナムオフショア開発を活用したいが、うまく進められるか不安がある。新規事業のシステム開発を進めたいが、体制や進め方に悩んでいる。開発後の運用やインシデント管理まで含めて相談したい。
そのような企業様は、ぜひ一度ご相談ください。
失敗を恐れず、失敗から学び、強い事業と強い組織を一緒に作っていきましょう。
TomorrowFuture株式会社 代表取締役 根岸 大輔 電話:070-2021-7382 メール:daisuke.negishi@tomorrowfuture.co.jp




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